FILE.41 蟻地獄殺人事件
- 2023.08.12 Saturday
- 23:59
ご無沙汰の「金田一少年」読み直し、今回はFILE.41「蟻地獄殺人事件」ですが、コミックスではその前の40「狐火流し殺人事件」の間に若かりし頃の明智警視が主人公の短編「学生明智健悟の事件簿」が収録されているので合わせて紹介しておきます。
大学生の明智が久々に母校を訪れると、校舎にはピアノで奏でられたベートーベンの「月光」が響いていた。明智は恩師である教師・姫野から相談を持ち掛けられる。高校の卒業生であり、明智にとっても先輩にあたる「秀央のミスDJ」こと美国礼奈…彼女が先日訪れた際、自殺をほのめかした彼女の様子をそれとなく探って欲しい…という頼みだった。
大学の学園祭にかこつけて彼女の大学を訪れる明智。そこで彼は西東医大の海堂という男の悪い評判と、彼が礼奈と関わっているという噂を耳にする。そして、彼女がDJを務めるラジオが流れる中、海堂の死体が発見される。
エピソードとしては割とありきたりで、礼奈は恐らくはコンパか何かの時に一服盛られたか泥酔させられたかで海堂から性的暴行を受け、その時にその様を写真に撮られた事て彼のいいなりになっている…その復讐とその状態からの解放が犯行の理由。女性の性被害の類は現実でも被害者が中々告白できない状況になり易い…と聞きますから、こういったミステリの動機としてはよく使われますね。2時間サスペンスとかではよく見るパターンです。
最初から犯人は提示されており、謎解き要素は薄め。ハジメの旧友が登場するエピソードと同じく、物語としての「ほろ苦さ」を強調した話になっております。ちなみにこのエピソードは明智と剣持が出会った事件になっています。しかし明智警視…ミスチルとか聞くんですねぇ。気取ったクラシックとかしか聞かない人かと思ってましたわ。
今回の犯人 美国礼奈 …犯人強度 60万パワー
生放送の収録中である事をアリバイ工作に利用…というのも結構あるパターンで、それが天候などブースにいては分かる筈がない事を発言してしまって…というのはこれまた結構あるパターンかと。確か似たようなエピソードが「相棒」にもあった筈。ちなみに彼女の単独犯行ではなく、共に番組を制作している名取めぐみが協力者。
さて、こちらから「蟻地獄殺人事件」です。
スマホゲーへの課金で金欠のハジメの元に、いつきからとある場所で行われる実験のモニターという高額バイトの誘いが。期間は3日で食事つき、一日当たり2万支払うというその誘いにホイホイ乗ったハジメは美雪を連れ立って実験会場となる施設、通称"蟻地獄壕"に。ここは砂丘にある旧軍の捕虜収容施設で、あちこちに蟻地獄の様な流砂があ危険な場所。ハジメ達はそれぞれ違う色の服を着せられ、バイタルを測定するリストバンドを装着しそのデータを記録するというのが実験の主旨だった。しかし実験初夜、参加者の1人である彩世泉のバイタルに異常を検出。彩世の部屋に向かうも、東棟のハジメの部屋からは鍵がかかっていて西棟に行く事は出来ない。いつきに鍵を開けてもらい西棟に入るハジメだったが、鍵を開けに来る途中で背中から刺された彩世の遺体を発見した…と。
アリの巣の様に入り組んだ奇妙な建物で行われた殺人で、トリックの鍵は文字通り各部屋を繋ぐ通路の鍵…かと思いきやそれはある意味ミスリードになっています。勿論、実験に使っている5分おきに装着者のバイタルを測定するリストバンドもトリックに使われており、色々とギミックが面白く、部隊設定とかに関しては「金田一少年」の中でも一際ユニークなエピソードです。
但し、トリック自体は割と原始的で複雑なものではないので、謎解きとしての難易度はかなり低いんじゃないかと。トリックもそうですが、舞台設定のユニークさに比して犯人の犯行動機も「殺された恋人の復讐」という「金田一少年」の典型的なパターンににっており、被害者同士だったりのドラマもかなり薄口。ギミックに比べ物語としてはなんともインパクトの薄いエピソードになってしまっている感が。
あ、ちなみに今回の黒幕は高遠です。でも今回は見苦しい言い訳とかなしにあっさりトンズラ。
ただ高遠の目的はハジメとの対決ではなく別の所にあったのでは?と匂わせる作りになっていて、ハジメに「こんな事件はまだ続くかもしれない」的な事を言わせての幕引きに。意地悪な事を言うと、物語としての構想を組んだ時点でインパクトの弱さを送り手側が自覚してしまい、"そういう事にした"のでは?と疑ってしまう程。要するに、一言で言ってしまえば「物足りないエピソード」ですね。
今回の犯人 舞谷かえで …犯人強度 45万パワー
体形や背格好が似ているから…と死体のふりをしてやりすごすというのは…うーん…と思わざるを得ません。確認の為に顔をちゃんと見るとかするんじゃないか?同じ大学で一緒に旅行するレベルの友人もいたのだし。「よほどの事がない限り死体をジロジロ眺める奴はそういない」というハジメの言では弱い気がします。今回剣持さんや明智警視が不在なので現場保存の原則とかも理由に出来ないでしょうし。
あ、余談ですが…高分子吸水性ポリマーを使ったイタズラが今回の犯行理由である草凪蓮の死の原因…ってありましたが、ライフジャケット内の吸水性ポリマーが水を吸収したら約50倍の重さになる…とありましたが、アレは水を貯える性質があるだけなので、その比重は空気よりは当然高くなりますが水より高くはならんと思うのですが…。国体クラスに泳ぎが達者な人がそれで溺れるか?と。
彼が溺れた原因はむしろ突然ライフジャケット内が膨らんだ事でパニックになった事と、ゲル状に変化した吸水性ポリマーに動きを阻害されたから…とかにした方が適切だったんじゃないかなぁ…と。